第42章 上弦の陸
後に、火憐を庇った堕姫の良心が、二人の魂を地獄の炎から短期間で救う事となったが、今は、誰も知る由も無かった。
炭次郎は、同期の元へ。火憐は宇髄の元へ戻った。今更ながら、伊黒が駆け付けていた。
「伊黒さん。来てくださったのですね」
「お前は怪我一つしていないな? 戦ったのか」
「戦っていたぜ」
宇髄は、目を閉じ、少し悔しそうに笑った。
「誰よりもド派手に戦い、無傷で生き残った。コイツは本物だ」
「伊黒さん。宇髄さんをお願いします。私は少し用事が出来ましたので」
「待て、何処へ行く」
伊黒は、珍しく女の腕を掴んで引き留めた。火憐は少し微笑んだだけで、答えなかった。
「鴉を飛ばしますので。縛っても良いので、冨岡さんを産屋敷邸から出さないでください。なんなら、殴って気絶させても構いません」
感情の制御を解いた彼女からは、激しい怒りと、悲しみの気配が漂っていた。