第42章 上弦の陸
「竈門君!! 宇髄さんを助けて!!」
火憐の声に応え、炭次郎は妹と宇髄に駆け寄った。
嫁達が喧しく泣き喚いていたが、禰豆子のお陰で宇髄も命拾いした。
「お前」
宇髄は、火憐を見て弱々しく笑った。
「怪我一つ負ってねぇじゃねぇか。最初からお前だけ連れてくるべきだったな」
「いいえ。若手に経験を積ませる事は大切です。生き残った彼らは、きっと更に力を付けるはず。それに貴方は⋯⋯」
「ああ。もう無理だな。やっぱり俺は天才なんかじゃない。分かってはいたが、柱の存在は、下っ端の士気向上に繋がるからな。だが、お前の様な化け物がいるなら、もう出番はねえよ」
「⋯⋯私は化け物の首を探しに行ってきます。聞きたいことがあるので」
火憐は、先に探しに出た炭次郎の匂いを追った。
兄妹の首は、激しく言い争っているところを、炭次郎に諌められていた。殆ど消滅しかけている。
「待って!! 教えて!!」
火憐は、妓夫太郎の顔に手を置いた。
「妹を鬼にしたのは誰?! 長く辛い戦いを強いたのは誰なの?! 必ず仇を討つから!! 教えて!!!」
「⋯⋯童磨」
妓夫太郎は、逡巡の後答えた。彼は自身のことなどどうでも良かった。後悔は無かった。しかし、生まれ付き美しかった妹が凄惨な姿になったのは、紛れもなく自分の教えのせいだと悔いていた。違う生き方があったのでは、と否定出来なかった。
「っ!! 分かった!! 必ず何とかする!! 祈るから!! 貴女達が次こそ幸せに生きられる様に。⋯⋯助けてあげられなくて、ごめんね。ありがとう⋯⋯」
火憐は堕姫の髪に触れた。彼女は消える間際に涙を溢した。
「ごめんなさい⋯⋯。貴女を鬼にしたのは、人間なのに⋯⋯。助けてあげられなくて⋯⋯。私を助けてくれて、ありがとう⋯⋯」