第42章 上弦の陸
「うるさいわね!! アンタみたいなヤツ、さっさと死ねば良いのよ!!」
堕姫は更に帯の速度を早めた。
(首⋯⋯二つ同時に⋯⋯)
「火憐さん!!」
炭次郎が動いた。妓夫太郎にクナイが刺さっていた。火憐が調合した強烈な毒が塗られた物だ。
宇髄も起き上がり、斬り掛かった。
「譜面が完成した!! 勝ちに行くぞォォ」
彼が動ける以上、火憐が加勢すべきは、堕姫の方だ。
瓦礫から抜け出した善逸と、足の出血を無理矢理止めた猪之助が、前へ出た。
(嗚呼⋯⋯なんて無力で、尊い人達だろう)
火憐は、水炎の呼吸に切り替えた。弱くても、勝てないであろう敵を前にしても、決して折れず、逃げ出さない。
「拾弐ノ型、流炎舞、反転!!」
彼女の技は堕姫の全ての帯を焼き切った。善逸と猪之助が渾身の刃を振るう。
満身創痍の叫びが月下に響き渡った。そして、のち⋯⋯二つの首が宙へ舞った。
「善逸君、猪之助君、もう動かないで!! 隠が来るから!!」
火憐は素早く指示を出し、炭次郎達へ駆け寄った。
彼は顎に酷い怪我を負い、指を骨折していた。そして、火憐は初めて禰豆子と向き合った。
(今は落ち着いている? 本当に人を襲わない?)
禰豆子は炭次郎の体に触れた。瞬間、彼の体が燃え上がったので、火憐は悲鳴を上げそうになった。
しかし、程なくして彼は目を覚ました。毒を喰らっているはずの彼は、何故か意識をはっきり保っていた。
茫然としている火憐を他所に、炭次郎と禰豆子は、善逸と猪之助に駆け寄った。両者共に身体を燃やされた後、意識を取り戻した。
(血鬼術?! そういえば、禰豆子さんの血鬼術は鬼だけを燃やすって⋯⋯)