第42章 上弦の陸
「竈門君!! ボサっとしないで!!」
火憐の忠告も虚しく、彼は善逸諸共帯に吹き飛ばされた。
「残ったのは、お前だけか」
妓夫太郎と堕姫は、火憐と対峙した。
「私が残れば十分です」
火憐は、心を殺した。そうでなければ、仲間の人間が傷を負って死に掛けている現実に、叫びだしそうだったからだ。
「私たちの敗因は、最初から私が戦っていなかったこと。そして貴方たちの死因は、最初からお兄さんが戦っていなかった事です」
彼女は首の包帯を外した。其処には、上弦の鬼と渡り合える印がハッキリと現れていた。
「寧ろこの状況は、私にとって有利。もう、何も守らなくて良い」
火憐は、呼吸を切り替えた。
「壱ノ型、不知火」
彼女は容易に堕姫の攻撃を掻い潜り、彼女の首を跳ねた。
(結局こうなる。誰も私を守れない。私が独り⋯⋯何時も)
「肆ノ型、盛炎のうねり」
彼女の心は悲しみに燃えていた。そのせいで、技はより強威力となり、帯を焼き切り、血鎌を全て燃やし尽くし、妓夫太郎に血鬼術を使う間を与えなかった。
「なあ、そんなに強いなら、なんで鬼にならない?」
「これだけ強ければ、鬼になる必要が無いのです」
「鬼になれば、嫌な事はみんな忘れられるぞ。虫けらみたいに役に立たなかった死体の事も、誰にも救って貰えなかった怒りも」
妓夫太郎は、言葉で揺さぶりを掛けて来た。しかし、それはかえって火憐の心に火をつけた。
「怒りなんて感じていない! ただ悲しいだけだ!! お前の妹は何故鬼になった?! 何故火を怖がる?! 分かっているわよ!! 貴方達は、人だった頃、誰にも助けて貰えなかったのでしょう?! あんたはともかく、妹は解放してやりなさいよ!!」