第41章 遊郭潜入
「はい! 必ず柱を葬ります!」
堕姫は、蕨姫の姿に戻り、部屋を出ようとした。
「待って!」
宇那手はそんな彼女を血塗れの手で引き留めた。
「手を見せてください。貴女は簪に毒が仕込まれていると分かっていた。それなのに何故、掴んだのですか?!」
「うるさいね! もう私に構うんじゃないよ!」
蕨姫はそう言い、踵を返して、手に付いた血を口に含んだ。瞬間、脳裏に記憶が蘇った。人間だった頃の自分の姿と、本当になりたかった自分の姿。
あんな最期を誰が望むだろう? 梅は、兄の尊厳を守る為に取った行動により、死の淵まで追い詰められたのだ。もう、あんな光景は二度と見たく無かった。
「うわぁぁぁぁん!!」
蕨姫は子供の様に泣き出し、宇那手の首に縋り付いた。
「だって、あんなの酷いじゃない!!! 理不尽よ!!! 私は何も悪くないのに!!!」
「⋯⋯堕姫様」
宇那手は、妹にそうする様に、蕨姫を抱きしめた。
察するに、彼女は人間だった頃、宇那手と同じ様な経験をしたのだ。そして、誰にも助けては貰えなかった。彼女が鬼になったのは、百年以上前のはず。その頃の遊女の命など、吹けば飛ぶ様な物で、客を傷付けよう物なら、報復に殺されていてもおかしくは無かった。
「辛いことがあったのですね。人に傷付けられても、貴女は人を助けてくれた。優しい人です。貴女が救われる事を願っています」
宇那手は、ようやく自分の血の効果を知った。恐らく過去を掘り起こす作用があるのだろう。だから、青い彼岸花の情報を欲する鬼舞辻も求めたのだ。
「蕨姫花魁が、この様に泣いていては、皆動揺します。どうか落ち着いて⋯⋯」
「何よ! アンタなんか嫌いなんだから!! 私、子供じゃないんだから!!」
「では、泣き止みましょうね」
宇那手は、なんとか蕨姫を宥めて、部屋の外へ出した。