第41章 遊郭潜入
「はぁぁぁぁ?! どういうことですか、何処のどいつですか?!」
「男の方は、もう良いの。蕨姫花魁が庇ってくださったから。どんな事情があって助けてくださったのか分からないけれど、あの方は特別よ。貴方も顔色を窺って行動してね。それだけ伝えに来たの。お休み」
宇那手は、意図が伝わる事を信じて部屋を出た。そして、これ以上問題を起こさない様に、真っ直ぐ自分の部屋へ戻ったが、なんと問題の方からやって来たのだ。
鬼舞辻無残が窓枠に掛けていた。
「上手く潜り込んだ様だな」
「はい」
宇那手は後ろ手で襖を閉め、洋装の麗人と向き合った。
「擬態は得意なので」
「堕姫がお前を気に入っていた。何れは喰うつもりだろう」
「喰われるまで、此処にいるつもりはありません」
「お前が更に力を付けている事は分かる。それだけに理解出来ない。何故お前は異常者の集団に身を置く? 何故鬼にならない? 何故私の手を拒む?」
「拒んでいるつもりは無いのですよ」
宇那手は簪を鏡台に置き、鬼舞辻を真っ直ぐ見詰めた。
「私は鬼を殊更憎んでいるわけでもありません。人が動物の肉を喰らって力を付ける様に、貴方達が人間を喰らうのは当然のこと。そうしなければ死んでしまう。だけど、人間は、鬼に喰われる為に生まれて来たわけでは無いんです。そんな不条理を受け入れられません」
「なら、尚更鬼になれば良い。お前なら、堕姫を喰えるだろう。更に強い鬼になれる。ただ殺すよりも、鬼となり、喰えば良い」
「⋯⋯やはり、貴方も優しいのですね」
宇那手は、危険を冒して鬼舞辻の傍に歩み寄った。
「私の意思も尊重してくださる。私は、貴方を助けたい。貴方を完璧な存在にして差し上げたい。日差しの中を歩ける様に」