第41章 遊郭潜入
「はい」
善逸は、不機嫌さを前面に出して答えた。
「宇髄様」
宇那手は、声を抑えて囁いた。
「どうやら此処が本命です」
鬼の気配が強かった。
内儀は宇那手を欲しがった。宇髄は、初めて彼女が芸事を嗜んでいる事を伝え、即客を取れると主張した。
京極屋は、宇那手と善逸の両方を買った。
「善子さん、困ったことがあったら、頼ってくださいね」
宇那手は、闘士を完璧に隠し、嫋やかに微笑んだ。
「同郷同士支え合いましょう。必ずお力になります」
「ありがとうございます」
善逸は、複雑な思いで答えた。自分の存在が足手纏いになると分かっていたからだ。
宇那手は、太夫も目指せる器量だと持ち上げられ、すぐに客を取らされはしなかった。
最初の一晩、宇那手は徹底的に普通の娘に擬態し、建物の構造を把握する程度の動きしか取らなかった。
髪も結わずに廊下を歩いていると、突然背後から腕を掴まれ、驚いて振り返った。
男だ。
「あの⋯⋯何か?」
「お前は、幾らだ?」
酔っ払っている事は分かった。宇那手は冷静に言葉を返す。
「私は今日、売られたばかりで⋯⋯。この年ですが、振袖新造ですので、手を離してください」
「幾ら払えば良い? お前は幾らで売られた?」
「手を離して!!」
宇那手は大声を出し、手を振り払った。男は逆上し、包帯の巻かれた宇那手の首を掴むと、壁に叩き付けた。
「どう見ても子供じゃねえだろう! 買ってやると言っているんだ!」
「私はまだ、売りを禁じられています!!」
宇那手は、反射的に簪を手に取っていた。冨岡の声が蘇った。
──眼球を狙え。
そんな事をすれば、ただでは済まされない。追い出されて任務が遂行出来なくなる。かといって、呼吸を使えば、堅気の人間でない事がバレる。
相手が鬼なら考える必要は無い。しかし、人間だ。
「お願い! 触らないでください! 叱られてしまいます! お願い!!」
追い詰められた宇那手は、とうとう腕を振り上げていた。