第41章 遊郭潜入
「落ち着けよ、善逸」
炭次郎は苦笑した。宇那手は、いまいち三人組の関係性を掴めずにいた。
祭りの神を自称する宇髄を、手放しに称賛した炭次郎。
山の王を自称した猪之助。
それにつっこんだが、継子の重責をイマイチ理解し切れていない善逸。
一番の常識人は誰なのか。
「宇那手、お前顔が変わったか?」
宇髄が横目に見て訊ねた。普段の彼女より、幾分幼く見えたのだ。
「化粧です。十八の娘を売るのは、少し難しいでしょう? 私は十六だと思ってください」
「お前の花魁姿を見てみたいな」
「必要があれば、化けますよ」
宇那手は、穏やかに答えた。しかし、二人は途轍も無い速さで歩いており、三人組は必死の形相で追い掛けて来た。
藤の紋の家に着くと、宇髄はアレコレ指示を出し、炭次郎達に、女物の着物を着せた。そして、酷い化粧を施した。
「猪之助君は、化粧が必要無いのでは?」
宇那手が首を傾げると、宇髄は溜息を吐いた。
「そのままでは、すぐに貰い手が出て来るだろう。目的の店に送り込むには、必要だった。お前は──」
「私は、売れ残った子と同じ店に送ってください。神話をご存じないですか? 私を貰いたければ、代わりに売れ残った子も引き取れと、条件を出してください」
「⋯⋯分かった。刀は俺が預かるぞ」
「はい」
宇那手は、四本の刀を差し出した。
その後宇髄は、三人組にも自身の嫁について話した。善逸は、嫁が三人もいる事に腹を立てて、手が付けられないくらい荒れて、引っ叩かれたし、猪之助は、嫁が全員死んでいる可能性を示唆して吹っ飛ばされた。
準備を整え、五人が吉原に足を踏み入れた時には、既に宵闇が迫りつつあった。
「宇髄様。私は信用を得る為に一切連絡を取りません。一緒になった子を使いますので、放っておいてください」
「分かった」
宇髄に導かれ、一行はまずときと屋へ向かった。当然内儀は宇那手を欲しがったが、宇髄は既に貰い手がいると断り、代わりに炭次郎が引き取られた。
次に荻本屋に猪之助が貰われた。
最後まで残ったのは、善逸だった。彼は屈辱と怒りに震えていたが、彼の肩に宇那手は手を置いた。
「私は貴方と同郷の娘を演じます。そうすれば、貴方の身を案じても、不審がられませんから」