第40章 前夜
宇那手は、次の作戦の為に、戦いの他にも色々な事を学んでいた。琴、三味線、歌、舞。飲み込みの早い彼女は、どれもあっという間にサマになり、彼女自身の美しさも相まって、花魁になれるだけの事は身に付けた。
そして、もう一つの使命。出来るだけ多くの時間を、産屋敷の傍で過ごす事。彼は日に日に弱って行った。四ヶ月が経過した頃には、殆どの時間を布団の中で過ごす様になった。
そんな彼の傍で、宇那手は琴を奏で、歌を口ずさんだ。
「火憐」
産屋敷は、宇那手の声を遮った。
「はい。どうなさいましたか?」
彼女は、姉の様に優しい声色で問い掛けた。産屋敷は決意を固め、口を開いた。
「君が気にしている事を、話してしまいたい。私が、何故、七年と言ったのか」
「はい」
「痣の現れた剣士は、二十五歳を超えて生きた者が殆どいないんだ。君の予測通り、命の前借りということだろう。⋯⋯しかし、上弦の鬼に対抗するには、痣が必須だ。もし義勇にそれが現れたら⋯⋯君は⋯⋯」
「師範を⋯⋯寂しがらせずに済みます」
宇那手は、ある程度予測していた事実を聞き、産屋敷の手を握って泣いた。
「あの人は、優し過ぎるから、もう誰一人だって、見送りたくないはずです。私は⋯⋯私は、堪えてみせます」
「例外はある。その可能性を忘れないで欲しい。始まりの呼吸の戦士たち以外にも、二十五歳を超えて生き延びた者は、多数いる。⋯⋯四百年前には、痣者が多くいた故に、鬼殺隊が壊滅状態になった事がある。上弦の鬼を多く葬った分、隊士の損失も多かった。だから、私たちは、組織の存続を優先し、その痣の存在を隠していたんだ。⋯⋯そのせいで、力の及ばぬ柱達が、上弦の鬼に殺されてしまった⋯⋯。頼みたい事があるんだ」
「なんでしょうか?」
「私の分の命を君に託す。義勇と分け合い⋯⋯鬼のいない世界で、幸せに生きて欲しい。私の分まで、ずっと。そして、今後、痣の発現した私の子供たちが、短命を理由に鬼になったら、人を喰う前に殺しておくれ」
産屋敷は手を伸ばして宇那手の頭を撫でた。
「君には長生きして貰いたいんだ。⋯⋯こうして、君の時間を奪ってしまっているから。⋯⋯今日はもう、義勇の元へ行きなさい」