第39章 悲鳴嶼行冥
「ありがとうと、お伝えください。刀が無ければ、私は此処まで強くはなれませんでした。ずっと、私の刀を担当してくださっている、鋼鐵塚さんのお陰です」
「はい。必ず」
鉄穴森は木箱を抱えると深く頭を下げた。「ありがとう」の一言で、これまでの全てが報われたのだ。
様子を伺っていた隠が姿を現し、鉄穴森を出口へと案内して行った。
一連のやり取りを見ていた伊黒は、姿を隠した。甘露寺と同じ様に、宇那手も人に与える事の出来る女性だった。奪う側の人間ではなく、人の心を救い、明るい方へ導ける人間だ。
彼は、声を掛ける事が出来なかった。宇那手の実力を認めると伝えたかったが、話し掛けることもおこがましいと思ってしまったのだ。
「これは独り言なんですけれど」
突然宇那手が大声をあげたので、伊黒は足を止めた。
「私は猟師をしていました。鉄砲を担いで山を歩いていたんです。他の生き物の命を奪って生きていました。鬼が人間を喰うのと同じ様に、平然と。きっと私は地獄行きです。子鹿の目の前で、母鹿を撃った事もあります。父の家系は代々猟師で、私にもその罪の血が流れている。許されないと分かっています。だからこそ、人の為に生きたいんです。私を必要としてくれる方の為に、必死に生きて、そして罰を受けるつもりです。地獄に落ちるのなら⋯⋯愛する人と、同じ場所へ行けないのなら、生きている間くらい、傍にいて、貰った愛は返したい。私にとって柱の皆様は、もう大切な存在です。一人だって欠けて欲しくない。みんな、必要なんです!」
宇那手が、誰から伊黒の過去を聞いたのか、彼は不思議に思った。産屋敷しか知り得ない事だ。きっと産屋敷が、話したのだろう。
伊黒は、言葉を掛けたかった。どれほど、宇那手は傷付いているのだろう?
両親を自らの手で殺し、自分の血を呪い、鬼殺隊の為に尊厳を差し出し、甘露寺と同じ様に優しく笑っている。そして、求める事で伊黒に居場所を与えてくれた。