第39章 悲鳴嶼行冥
「大丈夫じゃないです!! 掠りましたよ!!!」
水炎の呼吸、拾弐ノ型が、宇那手の想定より、ほんの少し広範囲に及んでいたのだ。鍛える前の村田なら、尻餅どころの騒ぎでは無かっただろう。
「怪我はしていませんか?!」
「大丈夫です!!」
返事を聞き、宇那手は、縁側に掛けていた鉄穴森に駆け寄った。
「どうでしたか?」
「まるで⋯⋯演舞を見ている様でした。私の刀も、あの様に使われていると思うと⋯⋯」
「鋼鐵塚さんに、丈夫な刀をありがとうと、お伝えください。当代最強の柱の技を受け止めても、刃こぼれ一つしていません」
「貴女の様な依頼者が増えると良いです。使い捨ての道具では無く、身体の一部の様に扱ってくださる⋯⋯。貴女の存在が、刀を打つための力となりました。私の方こそ、ありがとうございます」
鉄穴森は深々と礼をし、立ち上がった。
「早速、私も仕事に取り掛かりたい。この、胸の中にある、何かが消えてしまわぬ内に、次の刀を打ちたい。私たちは、刀を打つことしか出来ませんから、貴女に頂いた想いは、刀に込めます。さようなら」
「ちょっと待ってください!」
宇那手は、慌てて引き留め、行儀も弁えずに走って部屋に戻った。そして、木箱を抱え、鉄穴森の元へ戻った。
「私、どの様なお礼をして良いのか分からなかったので、これを用意しました」
彼女は桐の箱を開けた。見事なガラス細工の風鈴が収められていた。
「鋼鐵塚さん、何時も身に付けていらっしゃったので、何か意味があるのかと思い、探しました。受け取っていただけるでしょうか?」
「⋯⋯当然です」
鉄穴森は、箱を受け取り俯いた。
「私たちは命を危険に晒し、戦うことが出来ない。刀のせいで隊士が命を落とした時には、激しく責め立てられる事もあります。このように⋯⋯お気持ちを示していただけた事が、とても嬉しくて⋯⋯」