第39章 悲鳴嶼行冥
「よもや⋯⋯よもや、これ程とは」
悲鳴嶼は言葉が出なかった。宇那手は、とっくに人の領分を超えている。早死にすると言われても納得の行く強さだった。
「ただ、一晩中戦うのは、まだ無理ですね。鬼舞辻を殺すなら、その必要がありますよね?」
宇那手は、ニコリと笑って刀を収めた。血も吐かなかったし、呼吸も乱れていない。刀も無事だ。確実に、強くなっている。
「元々、炎の呼吸の適性があったのは、納得が行きました。私の心は、鬼に襲われる前から燃えていていたんです。蝋燭の様な小さな火では無く、燃え盛る炎の様に生きたいという願望がありました。そこに、人を守りたいという、強い気持ちが加わった。心は誰よりも強いと、自信を持って言えます」
「なるほど。甘露寺が炎柱に師事した理由も同じであろう。宇那手火憐腕力を鍛えるのだ」
宇那手にとって予想外な指摘だった。多くの者が、宇那手の体躯では現状の腕力が限界であり、機動力や技の威力を高める様にと言った。
「腕力⋯⋯ですか⋯⋯」
「出来なくとも、握力を鍛えておくべきだ。鬼舞辻無惨の能力が測れぬ以上、持久戦になるだろう。お前は常に先手を取り、高威力の技で勝ち抜いて来たのだろうな。だからこそ、誰よりも早く刀を握れなくなる。私も不可能だと思った上で、敢えて口にした。お前なら出来ると信じて。腕力だ。⋯⋯想像するのも恐ろしいが」
悲鳴嶼は武器を収めた。
「人を喰らわずに戦う、人間のお前がそれほどの力を持つのなら、鬼舞辻無惨は、更に力を付けている可能性がある。だが、お前ならやれるはずだ」
彼は手を合わせると、丁寧に礼をして、踵を返した。
宇那手は、一息吐いた後、まず遠くで尻餅を着いていた村田に顔を向けた。
「大丈夫ですかー?!」