第39章 悲鳴嶼行冥
それから一週間後、半ベソをかいた村田が産屋敷邸に呼ばれて来た。他の弟子たちはまだ、鱗滝の試練をこなせずにいた。
村田は文句一つ言わずに、宇那手の指示に従い、冨岡は自身の技の威力を最大限に引き出せる様、鍛錬を続けた。
宇那手は、ひたすら走り込み、なるべく炎と水の呼吸を交互に切り替え、身体に負荷を掛けて限界を伸ばした。
そして、夕暮れ時に珍客が現れた。ひょっとこの面を付けている。間違いなく刀鍛冶職人だが、鋼鐵塚では無かった。
「こんにちは。宇那手火憐さんでしょうか?」
「はい」
「私、鉄穴森と申します。本日は、鋼鐵塚さんの代わりに刀を届けに参りました」
穏やかなその人は、布に包まれた二振りの刀を取り出した。
「珍しい事もあるもので⋯⋯。先にお伝えしておきますね。折っても構わない、と」
「え?!」
「鋼鐵塚さんは、これを寝る間も惜しんで打ちました。ですが、どうしても、強度を保ったまま軽くする事が出来なかったと、嘆いておりました。もう少し時間が欲しい、と。当面、この刀を使い捨てて欲しいとおっしゃっていました」
「ありがとうございます」
宇那手は丁重に受け取り、早速一振りを抜き、強く握った。すると、どうだろう。刀身が鮮やかな紫色に変化したのだ。
「こんなことが⋯⋯」
鉄穴森は、感嘆の声を上げた。宇那手の刀が二度、不可思議な色に変化した事は聞いていた。しかし、更にもう一度色が変わったのだ。
宇那手は満足気だった。
「水の呼吸、炎の呼吸。其々分かれて拮抗していましたが、どうやら一つになった様です。これで、私は水炎柱になれた。刀が証明してくれました。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。貴女は刀を一本も折っていない、優秀な剣士だとお聞きしました。是非、戦う姿を見てみたい⋯⋯」
「見ます?」
宇那手は、立ち上がって何度か刀を振った。確かに軽い。軽いせいで、これまでの様に思い切り振っては、自身の力のせいで関節が外れそうだ。
(当面、その分技の威力を上げれば良いか)
彼女は中庭へ向かい、警備を担当していた悲鳴嶼に声を掛けた。
「悲鳴嶼さん! すみません。ちょっと稽古をつけていただけませんか?」