第39章 悲鳴嶼行冥

「私で良ければ相手をしよう。宇那手火憐。柱の者たちが口を揃えてお前の能力を評価している。一度手合わせを願いたかった」

　言うや否や、悲鳴嶼は、鉄球に似た武器を大きく振り回した。

「村田さん、危ない！！」

　宇那手は、呑気に素振りを続けていた村田を引っ掴み、遠くに放り投げた。腕力が弱いとは言え、並みの人間に比べれば、化物の様な力だ。

(なるほど。音で距離感を測っている)

　宇那手はそっと足元の砂利を掴み、悲鳴嶼が次の一撃を放ったと同時に背後に投げた。

　実際には、間合いに飛び込み、刀を振りかぶっていた。

(水の呼吸、壱ノ型、水面斬り)

　刀が軽い分、強く握り、息を深く吸って技の威力を高めた。悲鳴嶼はそれを受け止めたが、後退せずにはいられなかった。

「なんという力⋯⋯」

(水炎の呼吸、壱ノ型、水烈斬)

　宇那手の周囲に、円を描く様に刀が走った。二つの型を極めた彼女が、独自に編み出した呼吸法だった。

　水の様に柔軟で、炎の様に纏わり付いて消えない。まともにくらえば、全身がバラバラになって、骨も残らず崩れていただろう。

「参ノ型、岩軀の膚」

　悲鳴嶼も、本気で応戦せずにはいられなかった。手を抜けば、自分が大怪我を負う。

「肆ノ型、打ち潮」

　宇那手は、自在に呼吸を切り替え、空中で体制を立て直し、着地した。着地の際も、接地面積を極力抑えているせいか、殆ど音がせず、悲鳴嶼は狼狽した。

　水の呼吸と、岩の呼吸は、どちらも守りに特化しているが、単純に戦うのなら、岩の呼吸の方が有利に立ち回れる。特に、腕力の弱い者が相手なら押し切れるはずだが、宇那手には、それが通用しなかった。