第38章 継承
「待ってください!!」
炭次郎は、泣きそうになりながら、遠ざかる、儚げな女性に手を伸ばした。
「死なないで!! 生きてください!!!」
「戦い、勝って、死ぬ事が柱の役割なのです。私も煉獄様と同じ様に、貴方を守るためなら、命を差し出します!! 確かに想いは継ぎました!!! 心が⋯⋯燃えています!!」
宇那手は、顔を背けて涙を流した。煉獄がもう二度と戻って来ない事実を、ようやく受け止めて、やがて自分も其処へ行く事を考えると、心が苦しかった。
(寂しくはない。父も母も、あの世にいる。沢山話そう。出会った人々の事を。心から愛した人の事を。胸を張って、伝えよう。勇敢に戦ったと)
「困らせると分かってる」
不死川は、宇那手に歩み寄り、乱暴に彼女の涙を拭った。
「俺はテメェが死んだら、必ず探し出す。冨岡よりも先に。鬼のいない世界で伝えたい事がある。いや⋯⋯次があるとは限らねぇ。お前の技は美しかった。俺はお前が好きだ。強さも、情けねぇ顔も。だから、俺はお前を優先する」
「これは俺のだ」
宇那手が答える前に、彼女の腕を冨岡が強く引っ張った。そして、堂々と、人目も憚らずに口付けをした。
「昼間っから何やってんだ」
宇髄が呆れた声で割り込んだ。彼は優れた体格を武器に、容易に冨岡と宇那手を引き離した。そして胸倉を掴んだまま、宇那手を見た。
「お前がド派手に凄いのは分かった。刀だ! 刀を貸してみろ」
「はい!」
宇那手は弾かれた様に得物を差し出した。
宇髄はそれを手に取り、何度か振って顔を顰めた。
「重すぎる。冨岡の物とそう変わらない。これだけ体格差があるのに。これまでは平の隊士だったから仕方なかったが、もっと遠慮なく注文を付けろ。お前は、柱の誰よりも呼吸の使い方が上手い。だから腕力に頼らなくても、威力の高い技を使える。そして、動きを細かく計算している。もっと鋼の密度を下げても、折れないだろう。刀が足を引っ張っている!! このままだと、刀のせいで死ぬぞ!! 俺が手紙を書いてやる。担当者は誰だ?!」