第38章 継承
唯一、炭次郎だけが絡繰に気付き、間合いに踏み込んだ。しかし、宇那手の圧倒的な速さには敵わなかった。
「水の呼吸、拾壱ノ型、凪」
彼女は何の反動も無しに、別の性質の呼吸へ切り替えた。炭次郎の斬撃は全て無効化された。
酷い怪我を負っていた炭次郎は、その瞬間に刀を取り落としてしまった。
「奥義、煉獄!!」
宇那手は、煉獄が独自に生み出した型を放った。炎柱を継いだ者として。尊い存在を亡くして、心を痛める後輩達の為に。
「壱ノ型、轟!!」
咄嗟に宇髄が飛び出し、応戦した。お陰で双方の技がぶつかり合い、四散した。
善逸と、猪之助は、全く動けなかった事に衝撃を受けて立ち尽くしていた。炭次郎も、畏怖の念を抱いて宇那手を見上げた。
「宇髄様、ありがとうございます」
「これで手抜きか?!」
宇髄は、信じられないと言わんばかりに肩を上下させていた。当代柱は、岩柱が最強と言われているが、宇那手は規格外の強さだった。
二つの呼吸の、最も威力の高いとされる技を使い、息を乱さずに立っている。
「炭次郎様」
宇那手は、少年に手を貸して立ち上がらせた。
「私はこの様に、高威力の技を連続して使用できます。ただし、私の寿命はあと七年と言われています。恐らく強さと引き換えに、命の前借りをしているのです。しかし、ここまでしてようやく、上弦の鬼に対抗し得る印が現れました」
彼女は首筋に浮かび上がった痣を見せた。
「鬼舞辻を殺し、妹を元に戻すには、この痣が必要です。ですが、それでは妹を人間に戻せても、貴方は長生き出来ない。仲間と連携を取る訓練をしてください。長生きしてくださいね。⋯⋯冨岡さんを、よろしくお願いします」
小声で付け加えられた言葉を聞き、炭次郎は目を見開いた。
「待って!!」
「さあ、隠の皆さん!! 彼らを蝶屋敷へ戻してください!!」
宇那手が手を叩くと、三人の少年はあっという間に担がれてしまった。