第5章 家族
「さあ、お二人共、今日はもう休んでください。お喋りは禁止です。明日には元気になっていますよ」
胡蝶は感じ良く言い、部屋を出た。それから少し悩み、自室へ向かうと、箪笥の中から昔着ていた羽織を何着か取り出してみた。
姉の形見を纏う様になってから、長らく触れていなかった物だ。
宇那手は、隊服の上に、肩幅の合わない男物の羽織を纏っていた。あれでは、ほんの僅かだとしても、動きに支障が出るだろう。
蝶の髪留めも取り出し、思い止まった。それは二つ一組の物で、片方はカナヲが使用している。
素っ気ない宇那手の風貌が気の毒になったのだが、彼女は冨岡と同じ紐で髪を結っていた。望んでそうしているのだろう。
胡蝶は苦笑し、溜息を零した。冨岡を家族と主張し、愛していると訴えた宇那手。宇那手が妹には見えないと言った冨岡。近い将来、また二人はぶつかり合うだろう。
そのぶつかり合いさえ出来ない、自身とカナヲの関係を悲しく思った。