第5章 家族
「⋯⋯ん」
宇那手は薄ら目を開けた。そして、弾かれた様に冨岡から離れ、胡蝶を振り返った。
「申し訳ございません! 私⋯⋯つい安心してしまい⋯⋯」
「冨岡さんは、美人な女の子に抱き付かれて、おろおろしていましたよ。可愛いですねー」
「私は美人ではありません」
宇那手が断言すると、胡蝶は肩を揺らして笑った。だんだん物言いが師範に似て来ている。
「美人というのは、胡蝶様をはじめとした、蝶屋敷の皆様の様な方を指す言葉です」
鈍くても、他人の神経を逆撫でする様な事を言わない分、宇那手の方がマシであったが。
「貴女も、この屋敷にふさわしい女の子ですよ? これで最後にしますが、私の傍で任務に励みませんか?」
胡蝶はもう一度確認をした。宇那手の存在は、未だ心を開かないカナヲにも、良い影響を与える筈だ。
現状、この屋敷には、胡蝶以上の剣士はいない為、カナヲの稽古相手がいないのも問題だ。
宇那手は、柱合会議の時の落ち着きを取り戻し、床に舞い降りると深々と頭を下げた。
「お心遣い、ありがとうございます。ですが、私は師範のお側にいたいのです。それに水柱の継子は、私以外存在しません」
「胡蝶、この娘は拾弍ノ型を編み出した」
冨岡が、突然切り出した。
「拾壱ノ型は俺が使ってしまったから、便宜上拾弍ノ型とした。日輪刀を見ての通り、水の呼吸の適性がある。⋯⋯その一点に於いては、炭次郎も敵わないだろう。同じ才能と気概を持った剣士がいれば、適性のある者の方が優れている。煉獄ならともかく、適性の無い蟲柱に渡す気は無い」
「分かりました」
胡蝶はにこりと微笑み、ベッドによじ登った宇那手に布団を掛けてから、冨岡を振り返った。
「ですが、洗濯くらいは自分でしてくださいね? さっき薬を塗りましたが、この子の手は、同じ立場のカナヲよりも、遥かに荒れています。本人がなんと言おうと、女の子である事をお忘れなく。⋯⋯もう、その心配もなさそうですが」
冨岡は、宇那手に掴まれていた辺りを、無意識に押さえていた。まるで、心臓がそこに移動した様に、熱く脈打っていたのだ。