第37章 理解
人の痛みに共感し、愛情を分け与えられる人だ。自分よりも他者を大切に思っている。
「お花を、よろしくお願いしますね」
「はい!」
隠は、てんこ盛りの花束を抱えて屋敷の中に消えた。
宇那手が雲の形を観察していると、慣れ親しんだ気配が近寄って来た。彼女はそれが怖かった。
なんと言葉を掛けていいのか、分からなかったのだ。さぞかし怒っている事だろう。お館様の手前、本音を言えなかったはずだ。
「火憐」
冨岡は、突然片手で宇那手の首を掴み、締め上げた。呼吸を使っているせいで、骨が軋んだ。
宇那手は、一切抵抗しなかった。ほんの十年前まで、嫁が不貞を働けば殺されていたのだ。冨岡になら、殺されても仕方がないと思った。
しかし、どうしても伝えたかった。
「ごめ⋯⋯なさ⋯⋯。愛し⋯⋯てる⋯⋯」
涙が頬を伝うと同時に、乱暴に投げ出された。宇那手はむせ返った。冨岡は怒りを露わにし、彼女を抱きしめた。
「すまない。これ以上の事は出来ない!! これ以上⋯⋯お前を傷付ける事は⋯⋯断じて⋯⋯」
「悪いのは、私です。柱である前に、貴女と契りを交わした者として⋯⋯相応の罰を──」
「誰がお前を責めた?! 誰もお前を責める権利など無い!! もう止めろ!! 自分で自分を罰するな!! そのために俺が⋯⋯手を下そうと⋯⋯。だが出来ない!! どうしても、お前を傷付ける事が出来ない⋯⋯」
冨岡は、宇那手の肩に手を置き、袖から何かを取り出した。
「奴に奪われたのだろう? 片方は俺からだ」
二本の簪だ。先に差し出された物は、青い宝石が使用されていた。そして、もう一本。
「煉獄瑠火殿の形見だ。煉獄の弟、千寿郎が送って寄越した。お前が炎柱を継いでくれた事に、深く感謝していた」