第37章 理解
宇那手は、一夜明けて、すぐに回復したが、刀を振るう事も、屋敷の敷地外へ出る事も禁じられ、縁側で日光浴をしていた。
穏やか過ぎて、一昨日の出来事が嘘の様だった。しかし、微かな痛みとして身体の奥底に記憶が残っている。
胡蝶は見舞いとして、花を送って来たし、甘露寺と伊黒も花束を抱えて来た。昼過ぎには不死川が、やはり花を持って来たせいで、宇那手の周りは花だらけになってしまった。
極め付けに、一際派手な国外の薔薇を宇髄が持って来た。最早その場で店が開そうな状態になった。
「すまなかった」
宇髄は膝を着き、深々と頭を下げた。
「俺は正直腹を立てていた。お前が何故、俺に協力しないのか」
「無理もありません。お館様以外、鬼舞辻との取引について、詳細をお話していなかったので」
「だが、尊厳まで懸けて、俺の嫁を救おうとした! 命も懸けた! 俺の個人的な事情に、命を懸ける必要は無い!」
「柱として、上弦の鬼の情報を探るのは当然の責務です。私は鬼に与せず、尊厳を保ちました。何も失ってはいません。でも、珍しいお花をありがとうございます」
宇那手は、穏やかに笑みを浮かべた。花を愛しんでいる姿は、何処からどう見ても、年頃の娘だ。不死川がたじろいだのも、当然だ。
「⋯⋯吉原に潜入する際、炭次郎様を連れて行ってくださいね。恐らく、貴方が蝶屋敷の女性達を連れ去ろうとすれば、彼は反抗するはず。私が刀を抜くのは、上弦の鬼が禰豆子を襲った時。あの鬼の娘は、鬼舞辻の獲物です。ですが、恐らく鬼舞辻は、上弦の陸にその事を伝えないでしょう。理由は、戦闘を通して、禰豆子の能力が開花する可能性があるから。そして、もう一つ」
宇那手は宇髄の目を真っ直ぐ見詰めた。
「あの鬼の娘は、鬼舞辻の血を多く注がれている。とある医者が調べてくれました。恐らく、柱と数名の隊士、鬼の娘を相手にすれば、上弦の陸に勝ち目は無いのです。喰う事は出来ない。だから、鬼舞辻は情報を伝えないはず。味方も道具として扱う鬼畜の所業です」