第36章 決意
しかし、宇那手は、落ち着いた声で、口を開いた。
「手掛かりはあります。私は衰弱し切った状態で崖から投げ落とされましたが、受け身も取れずに、生還しました。川に落ちたからです。⋯⋯これまで、知り合った隊士と個人的に文通をして、情報を集めていたのですが、似た様な経験をした者がいました。竈門炭次郎の同期、嘴平伊之助。幼少期、母親らしき人物に崖から投げ落とされ、その後猪に育てられたそうです。名前や誕生日が褌に書かれていた事から、止む無く捨てられたと思われます。記憶に残っている最後の言葉は、”お前だけでも生き延びて”。状況から察するに、母親は鬼から赤子を守るために、崖から投げた。大岳山の辺りを徘徊していたそうです」
「では、その辺りに探りを入れよう」
問題は誰が動くか、だ。
「⋯⋯っおい!」
不死川は、これまで誰も聞いた事のない様な、珍妙な声色で叫んだ。
宇那手が、力尽きた様に身体を預けて来たせいだ。
「すみません、不死川様。このまま少し喋らせてください」
その光景を目の当たりにし、伊黒、甘露寺は笑いを堪えるのに必死になった。
宇那手の体調を把握していた冨岡と胡蝶は、笑うどころか青ざめ、宇髄も責任を感じて俯いた。
「童磨は、偏食です。女を玩び好んで食べます。裏を返せば、女ならすぐに殺されずに済む可能性もありますが、遠くから様子を伺う程度なら、男性の方が安全です」
「では──」
「俺が行きます」
不死川が目を伏せたまま名乗り出た。彼はぐったりとしている宇那手の頭を強く抱き寄せた。
「冨岡は冷静さを失っている。俺が行きます」
彼もまた、怒りに支配されていた。傷を増やすな、と心配してくれた人の尊厳を踏み躙り、追い詰めた鬼を許せなかった。
家族にさえ、人殺しと詰られた自分を、尊いと言ってくれた人を、深く傷付けられたのだ。
「忘れ⋯⋯ないで⋯⋯」
宇那手が掠れた声で囁いた。
「一人で倒そうとしては⋯⋯いけません。私たちは人間。鬼とは違う。孤独じゃない。力を合わせて戦う事の出来る生き物です。⋯⋯煉獄様の教え⋯⋯です」
彼女は目を閉じて眠りに沈んでしまった。