第36章 決意
「いや。水の呼吸は守りに特化している。傍に──」
「冨岡さんの屋敷には、夕暮れ前に、私がお預かりしている隊士を移動させます。冨岡さんには、私の弟子達を命懸けで守っていただきます。私は炎の呼吸も使えますので、十二鬼月がやって来たら、殺します。周りに人がいなければ、技の制御が必要無くなり、負担も減ります」
「だが──」
「冨岡さん。私は柱なのですよ。守って貰う立場の人間ではありません」
宇那手は、産屋敷だけを見据えて答えた。
「村田さんだけは、私が預かります。彼は那田蜘蛛山でも善戦し、最近階級が上がりました。逃走出来ます。継子に迎える程の実力はありませんが、自衛は出来るでしょう」
「覚悟が足りてないのは、冨岡の方だな」
伊黒が嫌味を口にした。それは宇那手に対する称賛でもあった。
「宇那手は冷静に判断をしている。柱と一般隊士との一番の差は判断力だ。冨岡、貴様は何を考えている? 宇那手が生きていれば、後の人間はどうなっても良いと思っているのか?」
「だが、柱の中で優先順位を付けるなら、宇那手を最後まで残すべきだ」
意外なことに、不死川が反論した。特に驚きを見せたのは甘露寺だった。これまで、伊黒と不死川が言い合いになった事は、一度も無い。
「痣の件といい、鬼舞辻の件といい、不可欠な存在だ。戦闘能力が高いのも確かだ。そもそも、無限列車の件も、遊郭の情報も、事前に知れた事で、こうして身の振り方を考える猶予が出来た。冨岡を盾にしてでも残すべきだ」
「命に序列など付けられません」
宇那手は、不死川の手に、自分の手を重ねた。
「数字を付け、序列を付けるなど、鬼のする事です。私の命は、貴方と同じくらい尊い物。此処にいる者全員、命を懸けて戦う必要があります。でも、死ぬ必要は無いのです。私は生き残るための提案をしました! 私一人の身なら守れるのです!! 私が最も強いと言うのなら、此処にいる全員を守り通して見せます!! ⋯⋯未熟な私には⋯⋯それが出来ないから⋯⋯せめて私は⋯⋯」