第33章 悪鬼の笑み※
「その調子でベラベラ喋ってくれるなら、血はあげる」
宇那手は嫌悪を込めて答えた。勿論、心の無い童磨には、一切通じなかった。彼は宇那手を横抱きにし、窓枠に足を掛けた。
「それでは、暫くお預かりしますね」
童磨が高く跳んだ瞬間、宇那手は目を固く閉じた。
ほんの一瞬の内に、宇那手は見慣れぬ建物の中にいた。
(しまった! 位置の把握が出来ていない!)
彼女は焦って五感を働かせた。少し離れた位置に人間の気配がある。童磨もまた、人間に紛れて暮らしていたのだ。
「さてさて、傷を付けるなと言われても、君は刀を持っているし⋯⋯それに」
童磨は簪に手を伸ばした。宇那手は慌ててそれを振り払った。
「藤の毒です。触れば手が爛れます」
「爛れるどころの話じゃ無さそうだけど。心配してくれるの? 優しいね。ねえ、これで俺を刺してみてよ」
「は?!」
「従わないなら、殺しちゃうかも」
彼は片手で宇那手の首を締め上げた。物凄い力だった。数秒後に解放された彼女は、呼吸を荒げ、むせ返った。
「さ⋯⋯刺したからって、刺し返さないでくださいね!」
宇那手は簪を投げ、堂磨の首に突き刺した。それはみるみる彼の身体に吸収さらて、消滅した。並の鬼なら息絶えているところだが、彼は顔に火傷の様な痕が浮かび上がるだけで済んだ。それもすぐに消えた。
「これは、感じた事の無い刺激だ! 全身が痺れ、鼓動が揺らいだよ。お礼をしないとね」
童磨は、宇那手の髪を掴むと、無理矢理上を向かせて口付けをした。唾液を送り込まれ、飲み込んでしまうと、宇那手は身体から力が抜けてぐったりとしてしまった。
抵抗の無い宇那手を抱き抱え、童磨は満足げに笑った。
「大人しくなってくれて、何よりだよ。お陰で殺さずに済む。⋯⋯何年前のことだったかなあ? 君と同じくらい美しい女性が、俺を殺そうとした。綺麗な黒髪に、蝶の髪飾り⋯⋯。時間切れで喰い損ねたけれど」