第33章 悪鬼の笑み※
「やはり、こちらを探っていたか。一人は逃れた。後は知らん。興味が無い」
鬼舞辻は、上弦の鬼にすら、情を持っていなかった。平然と交渉材料として差し出したのだ。
宇那手は丁寧に礼をした。
「ありがとうございます。今回は私も戦いに駆り出されるでしょう。貴方にとって価値のある存在か、見極めていただければ幸いです。⋯⋯それでは、私はどうしましょうか? 何時でも身体を差し出す覚悟はありすが」
「⋯⋯童磨」
鬼舞辻は窓の外に呼び掛けた。瞬時に、奇抜な様相の鬼が姿を現した。
「何か御用でしょうか?」
「話は聞いていたな?」
「この人間の女性と、仲良くすれば良いんですね。うーん、これは中々旨そうだ」
虹色の瞳を持った、人間に近い姿の鬼は、舐め回す様に宇那手の全身を観察した。上弦の弐だ。相当人を喰っている。
この状況は、宇那手にとって、想定外だった。鬼舞辻なら、すぐに自分に飽きるだろうと考えていたが、新たに現れた鬼は、執着を示した。
「はじめまして、お嬢さん。お名前は?」
「宇那手火憐。当代水炎柱です」
「水と炎、両方使えるの? 凄いね!」
にこやかに話しているが、童磨からは一切感情を嗅ぎ取れなかった。心が無いのだ。ある意味、鬼舞辻以上の化け物に違いない。
「傷を付けるな。鬼にする必要も無い。時が来たら、私が喰う獲物だ」
鬼舞辻が釘を刺したおかげで、宇那手は少し安堵した。しかし、次の瞬間、全身が粟立った。
童磨が顎を持ち上げ、瞳を覗き込んで来たのだ。
「それじゃあ、朝が来るまで遊んであげるよ。君を極楽へ導いてあげる。でも、やっぱり血くらいは飲ませて欲しいな」