第33章 悪鬼の笑み※
「猗窩座」
鬼舞辻は不機嫌極まりのない声色で命じた。
「今すぐ失せろ。次につまらぬ報告をしに来たら、数字を剥奪する」
「はい!」
猗窩座は、止むを得ず撤退をした。本当はその場を去りたくなかった。宇那手の首には、確かに痣があった。人として至高の領域に達している。煉獄よりも能力が高いのは確かだ。鬼舞辻が負けるとは思わなかったが、傷を負わされる程度のことはあり得ると思った。
「今度は何の用だ」
鬼舞辻は、宇那手を睨んだ。恐怖心の麻痺した彼女は笑みを絶やさずに窓枠に腰掛けた。
「青い彼岸花の代替品について、お話しようかな、と。もし価値があれば、吉原に巣食う鬼の情報が欲しいのですが」
「猗窩座よりも、人間の意見に価値があるとは、情けない。だが、お前の情報が役に立ったのは事実だ。お陰で柱を一人葬れた」
「では、早速。珠世という鬼に聞いたところ、禰豆子は近い将来日光を克服するだろう、と。秋に彼岸花を探し回るより、ほんの少し待つ方が得策です。⋯⋯まあ、それだけでは不十分ですよね?」
宇那手は、鬼舞辻の思考を先読みして口角を吊り上げた。
「貴方は人間を取るに足りない生き物と評価して来たせいで、一つの可能性を見落としています。先日炭次郎様と話していて思い付いたのですが、鬼と人間の間に生まれた子は、どちらの性質を多く受け継ぐのでしょう? 日光に堪えられる鬼の子が生まれる可能性は無いでしょうか?」
「確かにその可能性は否定出来ない」
鬼舞辻は素直に認め、目を細めた。
「お前は怒っているな。何故私に協力する?」
「先を見据えて。貴方が日光を克服すれば、余計に鬼を増やされずに済みます。鬼殺隊の規模も縮小出来る。私は貴方を責めるつもりは無いのですよ。鬼になったのは、貴方の責任じゃない。食事は必要ですからね。私たちも動物を食します。困っているのは、貴方以外の、取るに足りない弱い鬼が、勝手に人間を喰い、制御統一が出来ていない点です」
宇那手は伸びた髪を背に流し、鬼舞辻歩み寄った。
「人間の私は、使えると思いませんか?」
「⋯⋯上弦の陸。恐らく一体は、柱一人でも容易に斬れる」
「つまり、上弦の陸は複数体だ、と。最近隊士を喰ってはいませんか?」