第33章 悪鬼の笑み※
宇那手は、煉獄の訃報を聞いたその日に、次の一手を打つ為、町へ繰り出していた。
鬼舞辻の居所は、以前から探っていたのだが、町に入った時点で異臭がし、すぐに居場所が分かった。
鬼舞辻本人ではなく、別の鬼の臭いだ。何処か懐かしい臭いも纏っている。煉獄を殺したのは、間違いなくそいつだった。
怒りも、悲しみも殺し、笑顔の仮面を纏った宇那手は、とある洋館へ二階の窓から忍び込んだ。
中には利発そうな少年と、鬼の姿があった。
「こんばんは、鬼舞辻様」
宇那手は、子供の方に感じ良く挨拶し、頭を下げた。怒りのせいで、最早恐怖心は湧かなかった。
「お前は──」
「動くな」
猗窩座の動きを、鬼舞辻は制した。お陰で宇那手は無傷で立っていられる事が出来た。
「はじめまして、猗窩座さん。鬼殺隊の宇那手と申します。貴方が煉獄様を殺してくださったお陰で、柱の席に着くことが出来ました。感謝していますよ」
心を閉ざし、笑みを浮かべている宇那手を見て、猗窩座は童磨の存在を思い出した。彼女は、巧妙に心を封じているせいで、感情や思考を読むことが一切出来なかった。
「ですが、花札の耳飾りを付けた少年は逃してしまった様ですね? どうしてです? まあ、彼はともかく、他にも二人の少年がいたはずですが、何故殺さなかったのです? まさか、逃げ帰って来た、とか」
猗窩座は、鬼舞辻の前でその言葉を否定できなかった。宇那手の言葉に激昂すれば、鬼舞辻の考えを否定する事になる。
「返事は要りません。私は鬼舞辻様とお話をする為に来ましたので」