第32章 終炎
さて、と言い宇那手は手を叩いた。
「夕食にしましょう!」
彼女は作り置いていた料理を手早く温め、机に並べた。三人で食べる最初の食事だった。
「明日は八時まで寝ていて大丈夫です。昼過ぎまで村田さんの稽古を付けます。その後は、仕事を振られなければ自由に過ごしてください」
「俺は任務がある。最近新たに人喰い鬼が現れた。捕縛が目的だ」
冨岡は、顔を顰めた。人を二、三人喰った程度の鬼狩りを柱に振られた時には、最終選別用として生捕りにしなければならない。次の選別には、藤原や、鱗滝の元にいた黒髪の少年・祐司も再挑戦するはずだ。
冨岡の狩った鬼が、二人を殺すかもしれないのだ。
「明後日の昼までは戻れない」
「では、お弁当を用意します」
宇那手は、そう答え、村田に目を向けて驚いた。彼は泣いていたのだ。
「村田さん?! どうしました?!」
「⋯⋯いえ。⋯⋯家族が⋯⋯こんな⋯⋯穏やかで、当たり前の会話が出来るなんて⋯⋯」
彼は、今晩倒した鬼の術を思い出した。
「宇那手さん、あの鬼の幻術の中にずっと閉じこもっていたら、どうなっていたんですか?」
「⋯⋯前例から考えると、生きるための行動が取れなくなり、弱った所を喰われていたでしょう。現実を忘れ、食事を摂ることも忘れ、夢を見る事を望んで、夜を待ちわび、廃人になっていたと思われます。少しお待ちくださいね」
宇那手は、戸棚から綴じ本を取り出し、村田に差し出した。
「これまでに戦った、全ての異能の鬼の血鬼術について纏めてあります。人から聞いた分も。目を通しておいてください。精神に干渉する術を使う者はかなり多いのです」