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【鬼滅の刃】継ぐ子の役割

第31章 幻惑の鬼


「帰りましょう」

 宇那手は悲しげな表情で踵を返した。

「え?! 助けないんですか?!」

 村田は意外に思い、宇那手に詰め寄った。彼女は唇を噛んでいたが、しばらくして、ようやく口を開いた。

「貧しい者を救うのは、国の仕事です。私たちの仕事は、鬼を狩ること。此処に住う者達だけを助けても、根本的な解決にはなりません。私が屋敷を所望すれば与えられ、彼らを救うことは出来ます。ですが、救い続けることは出来ません。⋯⋯国に、貧しい暮らしの者がどれだけいると思いますか? 全ては救えません。可哀想ですが──」

「待って!!」

 ボロボロの着物を羽織った少年が駆け寄って来た。

「貴女たちは、アレを倒した!! 教えて欲しい!! どうすれば良いんだ?! 毎夜毎夜、死んだ家族の夢を見せられて、頭に来た!!」

「貴方はどうやって夢から醒めたのですか?」

 宇那手は、戦う意志を示した少年に、真摯に向き合った。彼はボロ小屋から飛び出し、違う人生を歩む勇気を出したのだから。

「⋯⋯オレの家族は、あんなに優しく無かった。穀潰しだって、殴ったり、蹴ったり。弟はそれで死んだんだ!! 優しさなんて幻想だ!!」

「貴方の家族を殺したのは、鬼です。信じられないかも知れませんが、私たちは鬼を斬るための、政府非公認の組織人」

「どうすればなれる?! 女でもなれるなら、オレもなれるだろう?!」

「血を吐く様な努力をし、あの化け物を斬り伏せる力があれば、身分に関係なく採用されます。⋯⋯もし、興味がおありでしたら、狭霧山の麓にいる、鱗滝左近次という老人を訪ねてください。宇那手火憐に紹介されたと伝えなさい」

 宇那手は、荷物袋から弁当箱を取り出した。予備に持って来た握り飯だ。

「これをどうぞ。あの地獄から、自ら這い出したご褒美です。それでは、何時か任務でお会いしましょう」

 彼女は村田を連れてその場を去った。

 少年は、握り飯を取り出し、思い切り一口齧り、泣いた。白米を食べた記憶など無い。冷えていても柔らかく、中には知らない具材が詰まっていた。

 彼は親の仇を取る為でも、誰かを守るためでもなく、生きるために歩き出した。
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