第30章 鱗滝左近次
「そのつもりだ。⋯⋯無責任だと言われ様が、そのつもりで答えた。生きて戦う。他の柱がお前に手を出したら、俺はお前に加勢する。一番は共に戦う。その次が、お前と共に死ぬ。それが俺の答えだ」
冨岡は、どうするべきか悩んだ末、宇那手を抱きしめた。鱗滝も、村田も見ていたが、迷わず抱きしめた。
「火憐」
「⋯⋯っ⋯⋯はい」
「死ぬまで傍にいる」
そんな二人の壮絶なやり取りを聞いていた鱗滝は、深く溜息を吐いた。
「⋯⋯分かった。竈門炭次郎の件で何か問題が起きた時には、儂が責任を取る。柱の面々が納得する方法で、な。二年もの間、生かすと決めたのは儂だ。その代わり、義勇。死んでもその娘を守り通せ。お前の人生で、たった一人でも、守り通してみせろ。錆兎が面と想いを託した娘だ」
「深く感謝いたします」
冨岡は床に額が着くほど低頭して見せた。
かなり長い時間話し込んでいたが、隊士は一人も山を降りて来ない。代わりに、鴉がもう一羽舞い込み、村田の肩に止まった。
「北北西の貧民街へ行け! 子供と女が姿を消す!!」
「異能の鬼ですね」
宇那手は、すぐに隊士の顔に切り替え、不適に微笑んだ。
「恐らく、私の随行を想定していますね。行きましょう、村田さん」
彼女は戸惑いの表情を浮かべている男に、手を差し出した。とても鍛えている女には見えない。色白で、華奢で、艶やかだ。村田は、彼女の手を取って立ち上がった。
「師範」
宇那手は、小屋を出る前に、冨岡に微笑み掛けた。
「食事は用意してあります。温めて食べてください。お風呂の用意をしていただけると助かります」
そして、改めて鱗滝に深々と頭を下げた。
「皆をよろしくお願い致します」
彼女が立ち去って、数秒の後。
鱗滝は、冨岡の頬を張り飛ばした。
「継子に思考が及ばないとは、情けない」
殆ど八つ当たりに近かった。鱗滝自身、宇那手の言葉を聞いて考えを改めた。命を絶った所で、何の意味も無いのだ。例え自分が死んだとしても、失われた人間は戻らない。
死ぬことよりも、生きていく苦痛を受け入れる事が、本当の強さだと思った。