第30章 鱗滝左近次
「火憐です」
冨岡は、考えるより先に口走っていた。全ての責任を放棄したと捉えられる答えだ。しかし、考えても答えは変わらなかった。
竈門炭次郎に、一定の情があったのは確かだ。それでも、言葉を交わしたのは二年前と、柱合会議程度。
あの雪の日、鬼の禰豆子を斬らなかったツケを、今払う羽目になった。
「やはり、鬼は問答無用で斬り捨てるのみ。俺は判断を誤りました」
「いいえ、間違ってはいません」
宇那手は強く否定し、師範の顔を覗き込んだ。
「禰豆子の存在は、鬼舞辻と交渉をする上で、重要なものです。貴方の正しさは、下弦ノ壱が、鬼舞辻の言葉通りに動いた時に証明されます。それから、考えたくはありませんが、もし煉獄様が殉職された場合、私は厳しく責任を追及される可能性があります。決定権がお館様にあったとはいえ、危険を承知で、柱一名と未熟者三名で任務に当たらせたことを。私の命は優先していただかなくて結構です」
「では、腹を切るか、柱に嬲り殺されるのか?!」
「落ち着いてください!」
は、冨岡の横っ面を思い切り叩いた。
「腹を切る? それが私の役割ですか? 継子の役割は、柱の跡を継ぎ、鬼を滅すること!! 誰一人納得しなくとも、炎柱の席に着き、鬼舞辻を殺した後で死にます!! 貴方も、鬼の娘を助けた責任を取ってください!! 水柱として、共に戦う。死ぬことよりも、まず戦うんです!!」
「だが、他の柱は納得しな──」
「納得させるんですよ。仕事で。弱者の意見は尊重されないと、私に教えたのは貴方です!!」
「しかし──」
「良い加減にしろ、分からず屋!!!」
宇那手は、冨岡の胸倉を掴み、思い切り頭突きをした。
「そんなに死にたいなら、今すぐ死んでください!!! どうして楽な方に逃げるんですか?! 生きて戦え!! 私のために生きて!!!! 私の分も、生きて戦え!!!」
言葉の強さと裏腹に、宇那手はボロボロ泣いていた。
「炭次郎様と死ぬより⋯⋯私と生きて戦う事を選んでください!!」