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【鬼滅の刃】継ぐ子の役割

第30章 鱗滝左近次


「⋯⋯儂は頭がおかしくなったのか」

 鱗滝は、額に手を当てて呻いた。

「鬼舞辻と取引? 鬼の頭と? 言葉の通じない者と話し合いだと?」

「誰も試みようとしなかった。だから敢えて試したのです。⋯⋯それに」

 宇那手からは、炭次郎と良く似た、優しさの匂いがした。

「鬼舞辻無惨も、望んで病弱に生まれたわけじゃない。そもそも医師が試薬段階の薬を投与しなければ、鬼になんてならなかった。彼は陽の元を歩きたいと願っています。完全な存在になりたいから、だけが理由でしょうか? 彼は、彼自身が侮辱し、蔑んでいる人間に近付こうとしている。嘘でも家庭を持って暮らしている。死んだ後、せめて地獄へ落ちて欲しい。そして、健康な身体に生まれ変わって欲しい。奴は私の感情を読み取れます。その上で取引に乗ったんです。私は鬼舞辻を殺し、裁きを受けさせたい! 地獄に落ちて、救われて欲しいのです」

 彼女の言葉は、胡蝶の振る舞いと同じくらいちぐはぐな物だった。しかし、炭次郎の様な甘さは一切無い。

「言葉も慎重に選びました。心を読まれ、嘘を吐けないことも分かっていました。だから、本心を混ぜて話しました。鬼舞辻に日光を克服して貰いたいという願いは本当です。そうすれば、喰うための鬼を不用意に増やしはしないでしょう。その点に於いて、持っている限りの情報を渡しました。完璧な存在になった彼が、どんな生き方をして行くのか、見物です。更なる化け物になるのか⋯⋯誰にも愛されずに生きる辛さを知るか。師範」

 宇那手は、冨岡に優しい眼差しを向けた。

「虚しいと思いませんか? 何千年生きていようと、鬼舞辻は誰も愛さず、誰にも愛されずにいる。私はたった十八年しか生きていませんが、愛を知っている。とても幸せなことです」

「俺は鬼舞辻を許せない」

 冨岡は、宇那手の両肩に手を置いて、強く否定した。

「お前の寿命を奪った鬼共を、許す事は出来ない。例えどんな事情があっても」

「はい。鬼舞辻を殺すという、目的は同じですので、共に戦えます。戦いましょう」

 宇那手は、姉の様に冨岡の背を摩った。その様子を見守っていた鱗滝は、苦痛を与える覚悟で冨岡に向き直った。

「炭次郎と火憐。お前は、どちらの命を優先する?」
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