第30章 鱗滝左近次
「はい。私も常に思考しております。私は、鬼舞辻が確実に嘘を吐かないとは、最初から考えていませんでした。かといってあの自尊心の塊が、自分の身に危険が及ばぬ案件について、嘘だけを並べ、逃げるとも考えておりません。ですので、取引の際、嘘を吐けぬ様、質問は一つに絞りました。下弦ノ壱が何処に現れるか。それだけです。懸念しているのは、その時、上弦ノ十二鬼月が、どう動くかです。日に日に、夜の時間が長くなっているこの季節⋯⋯鬼は活発に動くはず。下弦ノ壱は、捨て駒であっても、犬死にさせるとは思えない。血を多く分け与えたのなら、斬られて灰にするより、他の鬼に喰わせた方が良い。煉獄様達が倒したと思った時、その場に上弦ノ十二鬼月が現れてもおかしくないのです。もし、上弦の鬼なら、当代柱を葬れると判断された場合、戦いで疲弊している彼らの元へ送り込まれるかもしれない。⋯⋯私は、もう少し鬼舞辻と接触する必要がある」
「任務の難易度で言えば、お前のしている事の方が遥かに難しく、他に代わりは務まらない。だが、柱に隠し通すのも、限度がある。全ては話せずとも、ある程度のことは⋯⋯。不死川や、伊黒は良い顔をしないだろうが⋯⋯」
「お二人は知っていますよ」
宇那手は、さらりと答えた。
「以前お屋敷で倒れた際、お見舞いに来てくださって。その時に少しお話をしました。ご存知無いのは、時透様と、煉獄様、宇髄様だけです」
「では、知った上であの手紙を送って寄越したのか!」
冨岡は、何故か少し怒り気味に拳に力を込めた。鬼と関わり⋯⋯ましてや目の前にいる鬼舞辻に刃を振るわず、話し合いで解決するやり方など、不死川が納得するはずが無いと思っていた。
居場所が分かるのなら、今すぐ殺しに行けと言い出しそうな物だが、呑気に稽古の事など書いて送り付けて来た。
どういう理由かは分からなかったが、宇那手は不死川の尊敬と、理解を勝ち得たのだ。