第30章 鱗滝左近次
「はい」
宇那手は刀を抜き、両面を鱗滝に見せた。
「こんな色変わりは初めてだ。そして、この文字」
鱗滝は、厄徐鬼滅の文字をなぞった。
「柱の物とは異なるが⋯⋯そうか。お前は真に認められているのだな。しかし、何故、この様な色変わりが起きたのか、理解出来ん。通常最も適正のある呼吸に合わせて変わる物だ」
「元々、私には炎の呼吸の適性があった様です。ですが、どうしても干天の慈雨を身に付けたく思い、水の呼吸を極めた結果、二つの適性が拮抗⋯⋯或いは表に出ている水の呼吸の適性が僅かに上回った結果だと判断しております」
「刀鍛冶職人の中でも話題になっている事だろう」
「そうですね。鋼鐵塚さんも、並々ならぬ興味を示していました」
「は⋯⋯ 鋼鐵塚がお前の担当か! 間違っても刀を折るなよ。殺されるぞ」
「心得ております」
宇那手は、刀を収めて冨岡に向き直った。
「あの⋯⋯ついでなので、大切なお話をしておいても良いですか? 村田さんも口が堅そうですので」
「今度はどんな厄介を拾って来た」
「宇髄様が調査されている案件について、個人的に協力を求められました。現状、お館様が反対しているのですが、協力すべきでしょうか?」
吉原の遊郭に鬼の気配があるとは、随分前から噂になっていた。宇髄は、自身の嫁を間諜として遊郭に送り込んでいる。
「擬態の精度が高いのなら、上弦の十二鬼月である可能性が高いかと思われます。私なら、並の人間に化ける事が出来ますし、女です。怪しまれずに動けるかと。⋯⋯ですが、問題は」
「鬼舞辻との取引だな」
冨岡は目を伏せて思案した。彼自身も、宇那手が鬼舞辻とどんなやり取りをしたのか、具体的には聞かされていない。宇髄にも話せない理由があるのだろう。
「お館様の意向には、他の柱も逆らえない。今のところ、動くな。負担を掛けることにはなるが、お館様に、止めていただけ。お前には、もっと重要な役割があるはずだ」