第30章 鱗滝左近次
宇那手と冨岡、唯一鍛錬に参加しなかった村田が後を追うと、鱗滝は胡座をかいて座った。
「宇那手火憐。お前の話はお館様からも伺っていた。既に柱と同等の待遇を受けている様だが、何体の鬼を斬った?」
「六十以上です。途中で数えるのをやめました」
「正確には八十二匹。十二鬼月を二匹。内、一匹は独力で斬っています」
代わりに冨岡が答えた。
「うむ⋯⋯」
鱗滝は、唸ることしか出来なかった。これまで、以上の剣士に会った事が無かったのだ。
「戦闘力だけではありません」
冨岡は、自分の人生に於いて、唯一誇れる継子の存在を、熱く語らずにはいられなかった。
「この娘は、鬼舞辻無惨と直接対面し、取引をしました。こちらに有益な情報をもたらし、お館様も、常に宇那手に意見を求めます。俺が今すぐ柱の座を明け渡さないのは、お館様がこの娘を友と呼び、重宝しているからです。みすみす死なせるわけには行きません」
「義勇が饒舌になったのは、火憐の存在が理由か⋯⋯」
鱗滝が宇那手に視線を向けた時、鴉が舞い込んで来た。冨岡の物だ。何故か宇那手の腕に止まったので、彼女は丁寧に括り付けられていた手紙を外してやった。
「⋯⋯私宛では無く、師範への物です。全く、この子は少し危なっかしい」
彼女は手紙を冨岡に差し出した。彼が受け取って確認すると、不死川からだった。
「あいつと何を話した」
「お礼と、刀の手入れの方法について。不死川様は、自身を斬って戦っていますので──師範?!」
宇那手の目の前で、冨岡は手紙を囲炉裏へ放り込んだ。
「何を考えているのです?! どうしてこんな真似を?! お返事は良いのですか?!」
「お前を貸せと言われた。煉獄から稽古の話を聞き、実力を測りたいと」
「構いませんよ。風の呼吸にも興味がありますし。師範は、不死川様がお嫌いですか?」
「そうじゃない」
冨岡は、それっきり口を噤んでしまった。代わりに鱗滝が口を開いた。
「お前の刀は不思議な色をしていたな。見せてくれるか?」