第30章 鱗滝左近次
「これは⋯⋯」
鱗滝は息を呑んだ。掘った面の模様は全て覚えている。亡くなった十三人の子供の事も、忘れようがなかった。
「何故、錆兎の面が⋯⋯」
「やはり、そうでしたか」
宇那手は、冨岡に手渡し、もう一つの面を鱗滝に差し出した。
「では、こちらは真菰さんの物ですね」
鱗滝は、それを受け取り、しばらく言葉を発する事が出来なかった。信じられない事が起こったのだ。鬼に殺された二人の面が、山頂に落ちていた。
「炭次郎様から、手紙で伺いました。お二人は、特に鱗滝様を慕っていた、と。他の子供たちも。⋯⋯皆、すぐ傍に帰って来たのです」
宇那手は、改めて鱗滝に頭を下げた。
「私の弟子達をよろしくお願い致します。特に、選別前の藤原は、稀血です。一応藤の御守りは持たせておりますが⋯⋯正規の隊士がこれだけいれば守り通せるでしょう」
「責任を持って預かろう。しかし、これだけの人数となると、寝場所が無い」
「隠に幕を用意させました。食材も。どうか、よろしくお願い致します」
「分かった。⋯⋯それでは、お前たち」
鱗滝は、隊士と藤原に目を向けた。
「この山を登り、明日の朝までに戻って来い。それすら出来なければ、教える事は何も無い」
彼の指示に、全員が顔を見合わせ、従った。鱗滝は、改めて宇那手に向き直った。
「お前には、まず礼を言わねばならん。二人の弟子の命を救ってくれた事を、感謝する」
「とんでもございません」
「少し話がしたい。中へ来い」
鱗滝は踵を返して小屋へと向かった。