第5章 家族
「それにしても、あの二人!」
アオイはプンプンしながら、薬を調合した。
「風邪の症状が無いんです! 考え過ぎで熱を出すなんて!! 宇那手さんはともかく、冨岡さんもなんて、信じられません!!」
「私にとっても、想定外でした。でも、彼女の存在は、きっと冨岡さんに良い影響を与えます」
胡蝶は、穏やかに返し、より複雑な薬の調合を行った。蜘蛛になり掛けた隊士を一人救う必要があったし、宇那手に個人的に頼まれていた物もあった。
宇那手の方は、翌朝回復していたのだが、冨岡の方が重傷であった。胡蝶曰く、普段脳味噌を使わないツケが回って来たらしい。宇那手は、鍛錬の時間以外、片時も師範の側を離れようとせず、時々泣きそうになっていた。
「宇那手さん、また倒れてしまいます」
夕暮れ時に、胡蝶が宇那手の肩に手を置くと、彼女はポロポロと涙を溢した。
「風邪で命を落とす人がいると、本で読みました。師範がいなくなったら、私は何のために生きていけば良いのか、分からないのです」
「大丈夫。すぐに良くなりますよ」
「⋯⋯無惨を殺す? 私には無理です。あの気配⋯⋯。私は自分の気配を悟られない様にするのに精一杯で⋯⋯。でも、手助けは出来ます。家族を失って帰る場所も無い。何の後ろ盾も無く、刀を振るう様な女を嫁に欲しがる人もいない。この方を守り、代わりに死ぬことが、私の生きる目的なんです!最も信頼している柱を失ったら⋯⋯私⋯⋯私は⋯⋯」
「まだそんな事を考えていたのか」
冨岡が目を開け、そっと腕を伸ばして宇那手の頬に触れた。
「冨岡さん!」
宇那手は、その手を両手で包んだ。
「冨岡さん⋯⋯良かった⋯⋯」
「呼吸が乱れているぞ」
「⋯⋯はい」
「今奇襲を受けたら戦えるか?」
「はい! 戦います!」
「違う! 戦うかどうかではなく、戦えるか⋯⋯勝てるかを聞いている」
「下弦の十二鬼月までなら。上限の鬼の力量は測れないので、お答え出来ません」
「⋯⋯思考が戻った様で何よりだ」
冨岡は、ほんの僅かに笑みを浮かべた。
「お前の役割は、俺と共に鬼舞辻無惨を滅し、可能な限り長生きすることだ。家族の分も。少なくとも、年長の俺より先に死ぬことなど、あってはならない」