第29章 羨望と嫉妬※
「同等の待遇を受けたければ、数字を出せば良い。十二鬼月を二体斬るか、鬼を五十体以上。簡単な話ですよね? 私ですら、隊士になって一年で、五十体以上を斬りました。その対価として、甲の階級と、お館様や柱の理解を勝ち取りました。貴方もそうすれば良いのですよ。それから、言いましたよね? 私を侮辱することは構いませんよ? 階級が上とはいえ、一般の隊士ですから。でも、師範を蔑める発言は看過できません。柱を侮辱するのなら、それなりの実力をお持ちなのでしょう。今から、外でお相手しましょうか?」
全員が動きを止めて、背筋に嫌な汗をかいた。宇那手は、あくまで穏やかな表情、口調であったが、何故か怒っている様に感じられた。
比較的感覚の優れている村田と浅井は、卒倒しそうになった。
「申し訳ございません!!」
宇那手と同期の男が、佐伯の頭を押さえつけて、無理矢理土下座させた。
「ご無礼をお許しください!!」
「貴方が謝る必要はありません。悪いのは、この未熟者です」
宇那手は刀を収めた。
「私の気配すら察知出来ないのですから、運が悪ければ、狭霧山で命を落とすかもしれませんね。最終選別へ向かう前の隊士候補が突破出来た課題を、この方が無事修了出来るか見物です。⋯⋯皆、これ以上騒がない様に。女性の隊士や、子供がいることもお忘れなく」
彼女は優雅に一礼し、部屋を出た。自分の事を快く思っていない存在は、必ずいると理解しているつもりだったが、剥き出しの悪意を向けられて、少し心が摩耗した。
今は、誰かに甘えたい気持ちでいっぱいだった。
だから、寝所へ戻るなり、一言も交わさずに、冨岡に抱き付いていた。
「また、俺のせいか?」
冨岡は、宇那手を抱き寄せて訊ねた。彼女が決して、首を縦に振らないと、分かっていながら。
「火憐⋯⋯。俺がお前にしてやれることは、もう無い。正直に言って、柱にも劣らぬ能力を付けた者に、掛ける言葉も無い。それでも、傍にいるか?」
「私を傷物にしたのは誰ですか?」
宇那手は、冨岡の顔を見上げた。
「責任を取ってください。貴方の腕の中で死なせてください。貴方が苦しむと分かっていても、私は、そうしたいんです!」