第29章 羨望と嫉妬※
隊士全員分の食事の片付けを済ませると、宇那手はすぐに文机へ向かった。冨岡は苛立ちと呆れから、彼女の手元を覗き込んだ。
「一体、誰に手紙を書いている?」
「不死川様に。先日ご心配をお掛けしましたので。時透様や、伊黒様、宇髄様にも、異例の待遇を認めていただいたお礼を」
彼女の筆まめさは、定期的に冨岡へ手紙を送って来る炭次郎をも凌駕していた。因みに冨岡は一通も返していない。
宇那手は、全て書き終えてから、冨岡に目を向けた。
「言葉は、届かなくなってから、送っても意味が無いのです。貴方との時間を消費している事をお許しください。無駄な時間では無いのです」
「分かって──」
冨岡の返答を、ギャーっという奇声が遮った。耳を澄ますと、男性隊士たちが何やら大騒ぎをしている事に気が付いた。
「何を考えているのでしょうか」
宇那手は、刀を手に取って立ち上がった。
彼女が離れの大部屋の襖を開けると、良い年をした男たちが枕を投げ合っていた。
「良い加減にしてください!! 大の大人が人の家で何を騒いでいるのです?!」
「コイツ!! この佐伯ってヤツが貴女を侮辱したんだ!!」
浅井が、首に刺し傷のある男を指した。他の三名も頷いている。
宇那手は眉間に皺を寄せて、諸悪の根元に歩み寄った。
「一体どの様な不満が?」
「柱ってのは、良い御身分だな!」
「おい、本気で殺す──」
「私はこの方と話しているのです!」
宇那手は、村田の言葉を遮り、佐伯に笑みを向けた。
「どういう意味でしょう?」
「給料は欲しいだけ。屋敷は立派で、女まで抱えている! 継子だかなんだか知らねえが、家事も任せて呑気なもんだぜ」
「まあ、その通りですね。ですが」
宇那手は、日輪刀を男の首筋に突き付けた。