第28章 姉
彼に、言ってやりたいことが山ほどあったが、あり過ぎて、村田は何も言えなかった。代わりに冨岡が口を開いた。
「俺は鬼殺隊の柱として、決して本音を伝えられない。戦わずに、長生きしろとは言えない。あいつが鬼との戦いで命を落としたら、全ての鬼を殺した後で、死ぬつもりだ」
「その考えが、宇那手さんを苦しめているんだ!!」
村田は声を荒げた。
「お前が死んだら、誰が錆兎さんやあの子を覚えていられる? なんで分かってくれないんだよ!! 宇那手さんは、お前が死ぬことなんて、少しも望んじゃいないのに!! あの人は、少し怖いけど⋯⋯でも心が温かくて、優しくて、助けて欲しいと思っている!! ⋯⋯泣いていたんだ。お前に会わなければ、苦しめずに済んだと言って、泣いていた!! 会わなければ良かったなんて、そんな悲しい事を言われる様な生き方をしないでくれよ!!」
「会わなければ良かったと、俺も思っている」
「冨岡!! お前──」
「俺なんかに会わなければ、もっと長く生きられただろう。あの器量だ。欲しがる男は沢山いる。俺が悪い」
冨岡はそう答えると、寝室に入り、襖をピシャリと閉めてしまった。
代わりに女性隊士のいる部屋から、少女が飛び出して来た。
「姉さん!!」
彼女は明るい声で、居間に飛び込んだ。村田は慌てて中の様子を伺った。
「どうしたの?」
優しい笑みを浮かべた宇那手が、藤原の頭を撫でていた。
「さっき、三つ編みの仕方を教えて貰ったの! こうすれば、髪の毛がばらけないって!」
藤原は、無邪気に宇那手の胸へ頬をすり寄せていた。