第28章 姉
「師範の過去については粗方伺っているのですが、貴方も最終選別で錆兎さんに守られたのですか?」
お茶を淹れながら、宇那手は静かに訊ねた。村田は姿勢を正して頷いた。
「怪我をして、気を失った冨岡を預けられました。その後七日間、身を隠す様に逃げ続けて⋯⋯。でも、冨岡は確かに実力があります!! 何があったか知らないけれど、あの時とは違う!! もう、手が届かないくらい⋯⋯」
「分かります」
宇那手は、少し悲しげに微笑んだ。
「師範が、血の滲むような努力をして来たことは、分かります。でも、あの方は、自分を卑下する。今も苦しんでいる。⋯⋯貴方が助けになってあげてください。同性の友人が必要なのです。私に出来ることは、私がやります。でも⋯⋯どうしてもあの人の胸の中にある痛みを拭い去れない⋯⋯。過去に囚われ続けている」
「貴女も⋯⋯ですよね」
村田は、茶菓子に手を伸ばしながら、遠慮がちに口を開いた。
「あんなに強いのに⋯⋯こんなに綺麗なのに、不安を抱えています。冨岡と、何があったんですか? 何が貴女を不安にさせているのですか?」
「⋯⋯私の事は良いのです」
迷った後、宇那手はそう答えた。自分と冨岡の関係は、自分自身で修復すべきだと思ったのだ。
「私の問題です。私は、自分の問題を理由に、任務や命を軽々に投げ打つ事はありませんが、その点師範は不安定です。責任感が無いのではなく、自身を過小評価しており、今の立場にも相応しく無いと考えている。⋯⋯一番怖いのは、相談もせずに、ある日突然いなくなってしまうことです」
「柱がそんなことをするはず無い⋯⋯と言いたいですが、冨岡の様子を見ると、あり得なくも無い気がします。だけど、いなくなるとしたら、それは貴女が死んだ時だと思います」