第27章 私事
冨岡は、彼女を押し倒し、顔をじっと見詰めた後、隊士達に目を向けた。
「こいつに色目を使うな」
「師範、貴方もです」
宇那手は、呼吸を使い、冨岡の身体を押し返すと、体を起こした。
彼女は冷静に自分の衣服を観察し、改めて隊服の機能性に感心した。
「和服と違い、容易に乱れませんね。戦いに向いています」
彼女は唯一解けてしまった髪を整える為に、簪を抜き取り、手櫛で髪の縺れを解いた。
「師範。夜に、とお話をしたはずです。私は貴方以外に性的関心を持っていませんので、二度とこんな真似をしないでください。⋯⋯無いとは思いますが、隊士の皆様も」
宇那手は、落ち着いた声色で、野次馬達に目を向けた。
「もし気の迷いで私に近付けば、この簪で刺します。私は師範の物ですので」
穏やかな表情で、冷ややかな言葉を放った宇那手に、全員が凍り付いてしまった。
助け舟を出したのは、後から駆け付けて来た村田だ。彼は後輩隊士達をげんこつで殴り、声を荒げた。
「お前ら⋯⋯無遠慮にも程があるだろう! 人の屋敷を勝手に歩き回るなんて、鬼のすることだ!」
「構いませんよ。襖を閉めておかなかった、此方にも非があります。⋯⋯尤も、師範が昼間から非常識な行動を取るとは、想定外でしたが」
宇那手は、満面の笑みで、刃物の様な言葉を振り回し、冨岡をザクザク斬り付けた。
「そんなに私が他の方と関わることが不快でしたら、師範が外へ遊びに行ってはいかがでしょう? この家の庭と、増設していただいた部分は私の物ですし。それに、女性が増えた事もお忘れなく。私としても、あまり貴方と接触して欲しくはありませんから。⋯⋯私は、鬼の様な女ですし」