第27章 私事
「終わりましたよ」
彼女は窓辺に止まっていた鴉の足に手紙を括り付け、振り返って固まってしまった。様子を伺っていた隊士達を見回して、瞬きをした。
「何か入用の物がありましたか? 生憎娯楽に使用できそうな物が無いですので、退屈でしょうが⋯⋯。日中でしたら、町へ遊びに行っていらしても構いませんよ」
「いえ! その⋯⋯あの⋯⋯後ろ姿もお綺麗だと⋯⋯」
「まあ! 私の鬼の様な内面をご存知で、よくその様な言葉を⋯⋯」
宇那手は、純粋に驚いた。綺麗だと褒められた記憶は、殆ど無かった。
「ありがとうございます。一応髪の手入れはしているのですが、十分かどうか⋯⋯。女性の隊士の方ともお話をしてみたかったのです」
「綺麗だ」
突然冨岡が口を開いた。宇那手は、頬を赤く染め、未だ抱きついて離れようとしない師範の両肩に手を置いた。
「良い加減にしてください! 貴方は柱なのですよ! もっと他の隊士の憧れとなる様な行動を心掛けてください」
「俺が呼んだ客じゃない」
「子供ですか! ⋯⋯っ!!」
当然、首筋に唇を押し当てられ、宇那手は息を呑んだ。思考が乱れ、どうして良いのか分からなくなった。
周りには、大人の男の隊士がいて、自分を見ている。それなのに、冨岡はわざと、見えない様に宇那手の腰に手を這わせた。快楽を誘っている。
「う⋯⋯あっ⋯⋯やめっ」
彼女の小さな喘ぎ声は、隊士達を興奮させるのに、十分な物だった。鬼を斬っている姿からは、想像も付かない様な女々しい姿に、全員が唾を呑んだ。
「義⋯⋯勇さん!」
宇那手は、うっかり師範の名を呼んでしまった。それは、特別な関係を示す、何よりの証拠だ。