第26章 特別稽古
「任務のお話は出来ません。お許しを」
宇那手は処置を終え、次の患者に目を向けた。
そんな調子でどんどん治療を施し、最後に村田と向き合った。彼は左腕に深い傷を負っていたがそれ以外は無傷だ。咄嗟に利き手と反対の手で身を守った事も考慮すると、判断力も悪くは無い。
「言っておきますが、私は加減しました」
「分かっていますよ。那田蜘蛛山で貴女の動きを見ましたし、下弦の十二鬼月を斬れる貴女が、俺を斬れないはずがないです」
「⋯⋯師範の同期ということは、私よりも年長者ですね? 私の指導を受ける事に抵抗はありませんか?」
「ありません。⋯⋯そんな考えの人間は、此処へ来なかったと思います。冨岡とは、随分差が付いてしまいましたが、少しでも追い付きたいので」
「立派な覚悟です」
宇那手は全員の手当てを終え、一同を見渡した。
「女性は藤原に従い部屋へ移動してください。男性は私がご案内します。今夜一晩は、ゆっくり休んでください。此処は安全です。私と師範で守りを固めておりますので。夕食の時間迄は、自由に過ごしてください」
彼女がそう告げると、全員が目的を持って動き始めた。
宇那手は、男性陣を率いて、増設された広い部屋へと向かった。
「こちらをご自由にお使いください。村田さんは、この屋敷を家だと思い、任務の合間にも、何時でも立ち寄ってください。事前に鴉を送っていただければ、食事の準備もしておきますので。私たちを、家族だと思ってください」
「⋯⋯はい」
村田は深く頭を下げた。家族を欲してやまなかった彼にとって、宇那手の言葉は救いだった。
「他の方々も、鱗滝様の元での修行が終わり次第、此方で稽古をつけます。実力に応じて、私の任務に同行する事も許可します。では。何か気になることがあれば、遠慮なく言ってください」
彼女は、階級が下の者たちに気を遣わせない様、部屋を出た。