第4章 蝶屋敷
「理解出来ない」
冨岡は、胡蝶の後に続きながら、珍しく自ら言葉を発した。
「俺が風邪を引くことと、あの娘の精神が不安定になることの、何処に因果関係がある?」
「理解出来ないのは、貴方の考え方です」
胡蝶は足を止め、廊下の壁に手を付いた。
「宇那手さんは、貴方を家族と認識しています。みんなに嫌われている貴方ですが、彼女は煉獄さんの誘いも断り、貴方を選んだんです。貴方の代わりに、なんの縁も無い竈門君のために腹を切ると言いました。少なくとも、家族以上に貴方を思っている。⋯⋯私がこんな振る舞いをする様になったのは、姉さんが亡くなったから。大切な人の死は、それほど精神に影響を与えます。貴方には、理解出来ないのですか?」
「理解出来ない点は二つ。俺が嫌われていること。それを前提に、宇那手が俺を家族と認識していること。俺は宇那手の肉親を殺した」
「⋯⋯馬鹿ですか?」
振り返った胡蝶は、険しい表情をしていた。彼女は宇那手のために、仮面を取り払い、感情を露わにした。
「貴方がどう思おうと、宇那手さんが、貴方を慕っている事実は変わりません。他の人間がどう思おうと、彼女は、彼女自身の目で貴方を見て、貴方を信頼している。だから、傷付いたり、病気になったら、不安になるし、心配もする。こう言えば分かりますか? 冨岡さんがあの子を嫌ったとしても、あの子は貴方を慕い、命を掛けて守りたいと思っているんです!!」
「何故──」
「この際理由など、どうでも良いです。冨岡さん、貴方に出来ることは二つ。あの子の好意を跳ね除け、私か煉獄さんに託す。能力的に考えれば、他の柱も彼女を引き取りたがるでしょう。若しくは、好意を受け入れ、きちんと向き合う。貴方はどうしたいのですか?」
「⋯⋯」
冨岡は即答できずに、押し黙った。迷うという行為自体、彼にとっては数年振りの出来事だった。