第4章 蝶屋敷
「アオイ、この子をベッドに連れて行ってください」
胡蝶は拉致があかないと、宇那手を無理矢理引き剥がし、神崎に押し付けた。
「正真正銘、水柱の継子の方です。丁重に扱ってくださいね。カナヲと同じ様に」
「はい。かしこまりました」
アオイは、真っ直ぐ宇那手を見詰め、眉間にしわを寄せた。
「私の力量では、貴女を無理矢理従わせる事は出来ません。どうか、素直について来てください」
「⋯⋯はい」
宇那手は、酷く落ち込んだ様子で従った。
「それでは、お話を聞かせてください。手短に」
胡蝶は冨岡に向き直り、最後に付け加えた。冨岡は観念して、視線を逸らした。
「風呂に入った後に、着替えを用意していない事に気が付いた。宇那手に取りに行かせてから、洗濯まで押し付けていた事に気が付いて、一瞬頭が熱くなった。俺の変調を察した宇那手が風呂場に入って来たから、出て行けと言ったら、屋敷から出て行った」
「それは、貴方が悪いですね」
胡蝶は、バッサリ切り捨てた。
「掃除、洗濯、炊事、全て彼女に任せていたのですか。そうですか。彼女自身の事だけでは無く、冨岡さんの分まで。炊事と掃除は、共用ですので、宇那手さんが行っていても殊更責める事は出来ませんが、貴方は自分の洗濯も彼女に押し付けていた、と?」
ニコニコしてはいるが、胡蝶からは怒りの匂いが漂っていた。
「宇那手さんは至って健康ですが、精神的に不安定になっています。貴方と比べて任務の経験が浅く、緊張が続き、その上で家事を丸投げされ、何より貴方を心配している。冨岡さん、家族になったのなら、きちんと妹を守らなければダメでしょう? 貴方の言葉足らずが、彼女を不安定にさせているんです。⋯⋯ともかく、今晩は中で過ごしてください。貴方が風邪を引いたら、宇那手さんは益々不安定になります」