第26章 特別稽古
結局、宇那手が産屋敷と協議をした稽古に取り掛かれるまで、一週間も休息を与えられた。
当日、彼女は朝早くから屋敷の掃除に取り掛かり、忙しく動いていた。藤原が彼女の手伝いをしていた。
「環、この屋敷で、不便は感じていない? 蝶屋敷の方が賑やかだったでしょう?」
宇那手は、大量の布団を干しながら、妹の様に寄り添う環に声を掛けた。少女は首を横に振った。
「いいえ。それに、私の呼吸の適性が水だと分かったので、此処にいるのが一番です」
「明日以降も、此処にいられるかは、貴女次第よ」
宇那手は、例え子供が相手でも、鬼と戦う覚悟を持った者を甘やかすつもりはなかった。
冨岡も、稽古については粗方聞かされていたが、指導に不向きな性格だと自覚していたので、大人しくしていた。
「すみません!」
正午前に、最初の来客があった。宇那手が玄関に駆け付けると、見知った隊士がいた。
「村田さん?! 貴方が来てくださるとは、思いませんでした」
「那田蜘蛛山で、貴女の実力を目の当たりにして、このままでは情けないと⋯⋯。それに」
彼は冨岡に目を向けた。
「お久し振りです」
「⋯⋯最終選別の時の⋯⋯」
「覚えていてくれたんだ! いや⋯⋯敬意を払うべきかな?」
「同期だ。その必要は無い」
「師範の同期だったんですね!」
宇那手は、感じ良く笑い、支給されているブーツを履いた。
「中庭に回ってください。定刻になり次第、始めます」
その後も、ぞろぞろと隊士が集まって来た。女性が三人に、男性が五人。その内一人は、宇那手が浅草で接触した隊士だった。
訓練に参加する者は、藤原を加えて九人となった。
「全員、私を取り囲む様に円を作って並んでください。私から、五メートル以上距離を取るように!」
宇那手の指示に、全員が従った。彼女の階級と、肩書きが彼らを従わせたのだ。
「抜刀!」
全員が一斉に刀を抜いた。全員が水の呼吸の使い手だった。