第25章 予想外※
「出来ない」
冨岡は、宇那手の手首を掴んで抱き寄せた。
「何故捨てなかった?」
「⋯⋯本当は⋯⋯師範の⋯⋯師範の御心が⋯⋯何時か離れてしまう事を考えると⋯⋯どうしても⋯⋯どうしても捨てられなかった!! 私は馬鹿です!! 貴方は真面目だから、薬で惑わされたとしても⋯⋯きっと責任を取ろうとすると⋯⋯。そんな愛でも良いから、欲しいと願ってしまった⋯⋯」
「⋯⋯言葉が足りない事は承知していた」
冨岡は、苦々しく呟いた。
「だが、足りない言葉をわざわざ補ってまで、繋ぎ止めたい人間がいなかった。⋯⋯だから、お前にどんな言葉を伝えたら良いのか分からなかった。俺はこの気持ちを表す言葉を一つしか知らない。お前はそれを察していると、ずっと、そう思っていた。俺のせいだ。俺が楽にしてやる」
彼は、改めて宇那手を押し倒し、耳元に口を寄せた。
「愛している。あと何回言えば、お前は信用する?」
「何回でも!!」
宇那手は、ぎゅっと富岡の首に抱きついた。
「生きている内に、何回でも⋯⋯何千回でも!! 私も貴方に伝えたい⋯⋯。七年後も⋯⋯十年後も⋯⋯ずっと、心から愛しています。でも⋯⋯」
彼女は涙に声を詰まらせた。
「愛しているから、忘れて欲しい⋯⋯。私が死んだら⋯⋯死んだ人間のことなど忘れて⋯⋯また、誰かを愛して生きて欲しい⋯⋯」
「忘れるものか!!」
冨岡は、身体を起こし叫んだ。自分に生じている激しい感情が何であるか、言葉に出来なかった。単純な怒りでは無い。首を締め上げられた時に似た、痛みと苦しみが伴っていた。
「忘れる事は出来ない!! そんな生優しい感情では無い!! すまない⋯⋯言葉が⋯⋯言葉が分からない」
正直に胸の内を曝け出し、宇那手の濡れそぼった蜜壺に指をねじ込んだ。本当は、感情の代わりに、自身を押し込み、叩きつけたかったが、彼女の身体は限界を訴えていた。痛みに悶える姿は、もう見たく無かった。