第23章 追憶の救済
「褒められているのか、貶されているのか、分かりませんね」
宇那手は苦笑した。もし、あの晩、偶然誰かが山道を通り、家の中を覗いていたら、投獄されていたかも知れない。両親は、まだ人に近い姿をしていたのだから。
冨岡は、チラリと宇那手の様子を伺い、珍しく自ら口を開いた。
「噂は聞いていた。僅か二月で、一度も負傷せず、異能の鬼を十二体始末した傑物がいる、と。再会し、すぐにお前だと分かった。貶してはいない。お前は目の色も、気配も、並の隊士とは違っていた。特に判断力。あの日、咄嗟に現場の指揮を取ったお前の才能は、本物だと思った」
彼は、隊士となった宇那手と再会した日のことを思い出した。
深い雪の降り積もる夜だった。下弦の肆が派手に暴れ回った日、現場に派遣された隊士が総崩れの中、年上の男に掴み掛かり、怒鳴っている女がいた。
「あんたが何年目かは知らないけれど、私は丁だ!! あいつを何とか出来る!! 単独行動をして死ぬか、私に従うか決めろ!!」
その形相といったら、正に鬼の様だった。
隊士の殆どは、精神に介入され、敵と味方の判別が付かずにいた。全ての隊士が、自分の仇である鬼と同じ姿に見える幻術を掛けられていたのだ。
「この近くに鬼はいない! 全員武器をその場に捨てろ! 鬼に見えても、武器を持っていない者は人間だ! 殺すな!! 気配が察知出来る者は、私に随行せよ!! 鬼は私が斬る!! そこのお前!!」
なんと宇那手は、駆けつけて来た冨岡に刀を向けたのだ。彼女は一瞬息を呑んだが、それでも気迫を失わなかった。
「貴方は血鬼術を解除出来るはずです! この場の隊士をお願いします!!」
冨岡が、彼女の指示に従ったのは、彼女が確固たる自信を持っていたことと、血鬼術を見破り、鬼の位置を把握していたからだ。
冨岡は、鳥の翼に包み込まれる様に、術の影響を受けていた隊士を救い出した。