第23章 追憶の救済
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山を降りた所で、木の上から胡蝶が舞い降りた。
「お疲れ様です、火憐さん。藤原さんの事も聞きましたよ。今晩はうちで預かります。健康診断の必要がありますし、もう一度、適性を確認してみましょう。本当に花の呼吸の使い手なら、カナヲが型の修正を手助け出来ます」
「⋯⋯では、お願いします。こちらの刀もお渡しします」
宇那手は、まだ色変わりする前の日輪刀を差し出した。それから、環と目線を合わせ、頭を撫でた。
「この方は、蟲柱の胡蝶しのぶ様です。お姉様は、先代花柱だったのですよ。指示に従ってください。明日、迎えに行きますから」
「はい!」
環は歯切れの良い返事をした。胡蝶は感じ良く彼女を迎え入れ、冨岡に顔を向けた。
「頑張ってくださいね、冨岡さん」
「何をだ」
「分かっていますよね? 無理矢理は、駄目ですよ?」
「失せろ」
冨岡がありったけの嫌悪を込めて言うと、胡蝶はクスクス笑いながら、環を背負って姿を晦ました。
「胡蝶様もお疲れでしょうに⋯⋯。気を遣っていただいて、申し訳ないです」
宇那手は、ポツリと呟き、日の元に出た。
人離れした速度で移動しながら、宇那手と冨岡は言葉を交わした。
「師範。明日も休息をいただける様ですので、一度鱗滝様にお会いしたいのですが。お手紙で何度かやり取りをしていましたが、ご挨拶の機会が無くて⋯⋯」
「案内する。鱗滝様も、お前に興味を持っている。俺が炭次郎ではなく、お前を継子にしたことに驚いていた」
「師範は、炭次郎様のことを、どう思っていらっしゃるのですか? 将来的に継子にするおつもりですか?」
「正直、この二年存在を忘れていた」
「え」
「並の隊士に比べれば見込みはある。傀儡の鬼を一匹倒し、累との戦いでも、妹がいたとはいえ、刀が折れた状態でかなり時間を稼いだ。その点は評価する。だが、お前には及ばない。継子は一人いれば良い」
「そうですか。私のことも、忘れていましたか?」
「覚えていた。鬼を包丁で斬り続けた女を忘れるはずがない。⋯⋯まさか隊士になっているとは思っていなかったが」