第23章 追憶の救済
「⋯⋯恨まないのか?」
冨岡は目を伏せた。
「俺がお前を継子にしなければ、もっと長く生きられたかもしれない。平穏に、静かに暮らしていれば⋯⋯。俺ではなく、他の柱がお前を助けに行けば──」
「今よりずっと不幸でした」
宇那手は膝を着き、冨岡の手の甲に額を押し付けた。
「こんなに人を好きにはなれなかったです。⋯⋯長生きします。絶対に。でも、もし、先にいなくなっても、気に病まないでください。ずっと傍にいますから。見えなくても、触れることが出来なくても、幸せを願っています。貴方を愛──」
「愛している」
冨岡は、言葉を奪う様に重ねた。
「その言葉は、俺が貰って良い物では無い。お前に相応しい言葉だ」
「それでは、私の言葉の行き場が無くなってしまいます。どうか受け取ってください。私は、貴方以外にこの言葉を伝えられる存在のいない、虚しい人間です」
宇那手は立ち上がり、隊服の埃を払った。懐中時計を取り出し、時刻を確認してから、小さく頷いた。
「今晩、私の時間を全て貴方に差し上げます。貴方が救った命です。好きにしてください。私も、それを望みます」
彼女は、解体中の幕へ向かった。中から少女が飛び出して来て、抱き付いた。姉を慕う様に、当たり前の様に。
「帰りましょう、師範!!」
宇那手は満面の笑みで手を振った。